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山口地方裁判所 昭和42年(行ウ)10号 判決 1970年2月16日

下関市大字豊前田町九四番地

原告

平尾アサヨ

東京都文京区大塚四丁目二一番二八号

平尾泰助

福岡市老司市営住宅七一号

平尾輝人

北九州市小倉区大字門前四七番地

西井節子

下関市大字豊前田町九四番地

馬木昇

右同所

平尾光司

右同所

平尾勝利

東京都港区赤坂丹後町一丁目御園アパート

平尾富美

右同所

平尾多鶴子

右九名訴訟代理人弁護士

西田信義

下関市山の口

被告

下関税務署長

小林一郎

右指定代理人

広島法務局検事 村重慶一

広島法務局法務事務官 赤坂誠一

山口地方法務局訟務課長 西本宏

広島国税局大蔵事務官 吉富正輝

主文

被告が昭和四〇年一二月八日付をもつて、原告らの被相続人平尾雅雄の昭和三七年度分所得税についてなした更正処分ののうちで審査決定で取消された部分を除く残余の部分のうち、所得金額五八三万一、五四七円を超える部分を取消す。

原告その余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを五分しその四を原告らの、その一を被告の、各負担とする。

事実

第一、当事者の求めた裁判

一、原告ら

(一)、被告が昭和四〇年一二月八日付をもつて、原告らの被相続人平尾雅雄の昭和三七年度分所得税についてなした更正処分のうちで審査決定で取消された部分を除く残余の部分のうち、所得金額四五九万一、五四七円を超える部分を取消す。

(二)、被告が昭和四〇年一二月八日付をもつて、原告らの被相続人平尾雅雄の昭和三九年度分所得税についてなした更正処分のうちで審査決定で取消された部分を除く残余の部分のうち、所得金額六六五万三、〇〇〇円を超える部分を取消す。

(三)、訴訟費用は被告の負担とする。

二、被告

(一)、原告らの請求を棄却する。

(二)、訴訟費用は原告らの負担とする。

第二、原告らの請求原因

一、訴外亡平尾雅雄は、下関市大字豊前田町九四番地において魚類の販売、ふぐの加工販売商を営んでいたが、同人は昭和四一年三月六日死亡し、原告平尾アサヨは妻として、その余の原告らは子として右訴外人を相続した。

二、右亡平尾雅雄は被告に対し、昭和三七、三九年度分所得税について、それぞれ別表(一)1、(二)1のとおり確定申告したところ、被告は昭和四〇年一二月八日付をもつて、右各所得税についてそれぞれ別表(一)2、(二)2のとおり更正し、その旨の通知書がその頃同人に到達したが、原告らは右各更正につき被告に対し異議申立をなしたところ、その後右異議申立は広島国税局長に対する審査請求として取扱われ、同国税局長は同四二年七月五日付をもつて、右各更正処分中それぞれ別表(一)3、(二)3のとおりの金額を超える部分を取消す旨の審査決定をなし、その旨の各通知書が同月一〇日原告平尾光司に到達した。

三、しかしながら、右各年度の所得は、別表(一)4、(二)4のとおりであるから、本件各更正処分のうち前記審査決定で取消された部分を除く残余の部分中右主張額を超える所得金額部分の取消しを求める。

第三、請求原因に対する被告の答弁

一、請求原因一、二の事実は認める。

二、同三の事実は争う。

第四、被告の主帳

一、原告らの被相続人亡平尾雅雄は、昭和三七、三九年度事業所得につき確定青色申告を行つたが、被告は売上脱漏を発見し右申立にかかる所得金額を是認できなかつたので昭和四〇年一二月八日付で青色申告承認の取消しをなし、本件各更正処分をなしたが、右処分内容(但し、審査決定により維持された部分)は、別表(三)、(四)のとおりである。

二、原告の各年度における配当所得額、譲渡所得額は右別表(三)の各所定科目欄記載のとおりである。また同事業所得額は別表(四)の差引事業所得金額欄記載のとおりであつて、別表(三)の事業所得額欄記載の金額はこれと一致(昭和三七年度分)ないしその範囲内(昭和三九年度分)であるから所得額の認定は適法である。

三、右所得計算上、売上脱漏金科目についての被告の主張は次のとおりである。

訴外亡平尾雅雄は、同人の取引銀行である福岡相互銀行下関支店において山本富次郎名義他二三件の預金をしているが、同人には営業の所得以外には、株式会社唐戸市場の配当所得(昭和三七年度分二万二、五〇〇円、昭和三九年度分二万八、一二五円)があるのみであるから、右預金のうち、預金相互間の振替えにより生じた預金および発生した利息により生じた預金を除いた両年分に新たに生じた別表(五)、(六)記載のとおりの各預金は売上脱漏によるものである。なお、売上金の管理を担当していた原告平尾アサヨは、本件異議申立ならびに審査請求に際して、右各預金が売上脱漏でない事実を資料をもつて合理的に説明しえず、被告においていかななる認定をされていてもやむをえない旨の供述をしていた。また、本件売上脱漏につき被告が調査した後に、亡平尾雅雄は売掛帳を残して両年度の他の原始記録等を焼却したものである。

以上のごとくであるから本件更正処分は適法である。

第五、被告の主張に対する原告の答弁および反論

一、被告の亡平尾雅雄に対する本件各更正処分の計算関係は認める。

二、別表(五)、(六)記載のとおりの各預金が存在したことは認めるが右各預金のうち、別表(五)記載の各預金のうちの1、2、3、15、16欄記載の各預金および同4欄記載の預金のうち一四万円ならび同表(六)記載の各預金は売上脱漏金ではない。

すなわち、右別表(五)記載の各預金のうち、1、2、3、15、16、欄記載の各預金および同4欄記載の預金のうち一四万円は、亡平尾雅雄が山口銀行西支店に預金していた無記名、架空名義定期預金等の払渡を受け、これを預金したものであり、更に、別表(六)記載の普通預金合計二一〇万円は貸付金の受領、他の預金の払戻し、前年度売掛金の入金、預り金等を預金したものである。また、本件原始帳簿等を廃棄したのは、亡平尾雅雄が昭和四〇年九月株式会社平越商店を設立して個人営業等の右帳簿類は不必要になつたためであり、また被告の調査後二年位経過し税務関係においても不必要と信じたからである。

第六、証拠

一、原告ら

甲第一、二号証を提出し、証人富田清一の証言、原告本人平尾光司本人尋問の結果を援用し、乙第二号証の成立は不知、その余の乙号各証の成立は認める。

二、被告

乙第一、二号証、第三号証の一、二、第四号証の一ないし五を提出し、証人吉川定登、同森近博の各証言を援用し、申第一号証の成立を認め、甲第二号証の成立は不知。

理由

一、請求原因一、二の事実は当事者間に争いがない。

二、原告らは、本件昭和三七年度分更正処分(審査決定で取消された部分を除く)について別表(五)記載の各預金のうち、1、2、3、15、16欄記載の預金および同4欄記載の預金のうち一四万円が売上脱漏金ではない旨主張し、その余の所得金額等税額計算関係は当事者間に争いがないから、以下右各預金を売上脱漏と認定した被告の処分が適法であるか否かにつき判断する。

成立に争いのない甲第一号証、同乙第一号証、証人富田清一の証言(但し後述採用しない部分を除く)および証人吉川定登、同森近博の各証言と原告平尾光司本人尋問の結果(但し後述採用しない部分を除く)を総合すれば次の事実が認められる。訴外亡平尾雅雄は昭和四一年三月死亡するまで主としてふぐの卸し販売(商いの約九〇%がふぐ、その余はうなぎ)をしており、営業の所得以外には、株式会社唐戸市場の配当所得が、二、三万円の少額にすぎなかつたこと、経理関係は税理士富田清一に依託していたところ、昭和三七年当時は右税理士において亡平尾雅雄の呈示する伝票にもとづき記載されていたが、別途簿外預金の存在は説明していなかつたこと、被告は昭和四〇年九月頃、亡平尾雅雄の過去の課税所得につき担保率が低いことから簿外預金の有無を検討したところ別表(五)記載の預金その他が発見されいずれも架空名義であつたこと、右架空名義預金について亡平尾雅雄および原告平尾アサヨは、被告および広島国税局に対しその発生の経過、保管の状況、金額等について合理的な説明をなしえず、売上脱漏として取扱われてもやむえない旨陳述しており、本訴訟において原告平尾光司は、本件預金のうち多少売上脱漏金が含まれているとの供述をしていること、被告が本件売上脱漏について調査を始めた後に亡平尾雅雄は売掛帳のみを残して他の原始記録を焼棄したこと、以上の事実を認めることができ右認定に反する証人富田清一の証言および原告平尾光司本人尋問の結果はにわかに採用しがたく、他に認定をくつがえすに足る証拠はない。右のごとき事実関係の認められる本件においては、別表(五)記載の簿外の架空名義預金は、右預金の入金状況と相応する預金源が存在してその預金源との関係が明確にされるなど特段の事情が認められない以上、売上脱漏によるものであると推認することができるものといわなければならない。

そこで、原告らは、まず別表(五)記載の預金のうち1、2、3、15、16欄記載の預金および同4欄記載の預金のうち一四万円は、亡平尾雅雄が山口銀行西支店に預金していた無記名、架空名義定期預金等の払渡を受け、これを預金したものであると主張するので検討するに、富田清一の証言および原告平尾光司本人尋問の結果によつて真正に成立したと認められる甲第二号証、証人富田清一の証言と原告平尾光司本人尋問の結果によれば、亡平尾雅雄は、昭和三六年から同三七年にかけ山口銀行西支店に無記名ないし架空名義定期預金をしていたが、昭和三七年一月二七日に上田露子名義の金額二〇万円、同年一月三〇日に山本政吉名義の金額二〇万円、同年五月二三日に無記名の金額八〇万円、同年五月三〇日に無記名の金額三〇万円、同年七月二〇日に金額五二万九、二二八円、同年一〇月四日に山本昭三名義の金額三〇万円の各預金をそれぞれ解約したことを推認することがでさる。もつとも、証人吉川定登の証言によれば被告の調査にもかかわらず山口銀行支店に亡平尾雅雄の架空名義預金を発見しえなかつたことが認められるが、右事実によるも前記推認事実をくつがえすに足りない。そして、当事者間に争いのない別表(五)記載の各預金預入れ日と金額を前記推認事実とてらし考えると、同表(五)1記載の山本富次郎名義五〇万円の普通預金は、その預入れ日が前記上田露子名義、山田政吉名義の各預金の解約日と密接し、右解約預金合計額四〇万円は右別表(五)1の預金五〇万円の一部として振替え預金に供された事情がうかがわれる(かりにしからずも、後記売掛代金支払日と右預金預入れ日とをてらしあわすと、右各預金は少なくとも昭和三七年度の売上脱漏金であるとは解しがたい。)同様に、同表(五)2記載の山本富次郎名義四〇万円の普通預金は昭和三七年七月二〇日に解約された前記五二万九、二二八円の無記定期預金のうち金四〇万円が振替え預金されたとの事情もうかがわれ、右簿外預金は一応その預金源が明らかになつたものといいうる。そうすると別表(五)1の五〇万円の預金のうち四〇万円、同表(五)2の四〇万円の預金をにわかに売上脱漏金であると推認することは相当でないといわなければならない。しかし、その余の別表(五)3、4、15、16の各預金については前記のごとき事情は認められず、原告らの主張は理由がない。(15、16記載の預金は、その預入れ日が五月二九日であり、原告本人平尾光司は五、六月中に売上げは殆んどない旨供述するが、成立に争いのない乙第四号証の二、四によれば、右期間中にも売上入金のあつたことが推認でき、また、原告平尾光司本人尋問の結果によれば、売掛代金は翌月一〇払いとされていたことが認められることおよび前記預金の解約日と右各預金の預入れ日との間にかなりの隔たりがあることなどを総合考慮すると、右各預金は前記解約預金が預金源になつていた事情はうかがわれない。)。

してみると、亡平尾雅雄の昭和三七年度分所得金額は、別表(五)記載の各預金のうち、1欄記載の預金中四〇万円の部分、2欄記載の預金四〇万円の合計八〇万円を、別表(三)の昭和三七年度総所得欄記載のとおりの金六六三万一、五四七円から差引いた残額五八三万一、五四七円であると認められる。

三、次に原告らは、昭和三九年度分更正処分(審査決定で取消された部分を除く)のうち、所得金額六六五万三、〇〇〇円を超える部分(金二二一万七、一六五円)の取消を求め、別表(六)記載の各預金合計二一〇万円を売上脱漏金でない旨主張するのみであるから、まず、右各預金以外についての所得金額につき判断するに、成立に争いのない乙第三号証の二、同第四号証の一および証人富田清一の証言ならびに弁論の全趣旨を総合すれば、亡平尾雅雄の記帳売上金額は八、一七四万六、五六四円であり、前記預金とは別に少なくとも右同額の売上所得があつたこと、その余の税額算出基礎項目、数額は別表(三)、(四)の各昭和三九年度欄記載のとおりであることが認められる。

そこで原被告間の実質的な争点である別表(六)の各預金について検討するに、前記理由二に挙示の証拠により昭和三九年度においても、前示昭和三七年度と同様の事実関係が認められるから、別表(六)記載の簿外の架空名義預金は右預金の入金状況と相応する預金源が存在してその預金源との関係が明確にされるなど特段の事情が認められない以上、売上脱漏によるものであると推認することができる。

ところで、原告らは、右各預金は貸付金の受領金、前年度売掛金の入金等を預金したものであると主張し、証人富田清一および原告本人平尾光司はこれに符合するような証言および供述をしているけれどもいずれもにわかに採用しがたく、他に右主張事実を認めるに足る証拠はない。

してみると亡平尾雅雄の昭和三九年度分所得金額についての被告の認定はなんら不合理な点がなく正当なものと認めざるを得ない。

四、よつて原告らの本訴請求は、被告が昭和四〇年一二月八日付をもつて原告らの被相続人平尾雅雄の昭和三七年度分所得税についてなした更正処分のうちで審査決定で取消された部分を除く残余にの部分のうち、所得金額五八三万一、五四七円を超える部分の取消を求める限度において理由があるからこれを認容し、その余は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担についき民事訴訟法八九条、九二条、九三条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 荻田健治郎 裁判官 小川喜久夫 裁判官 遠藤賢治)

別表(一)、三七年度分(単位・円)

<省略>

別表(二)、三九年度分(単位・円)

<省略>

別表(三)、(単位・円)

<省略>

別表(四)、(単位・円)

<省略>

別表(五)、三七年度分(単位・千円)

<省略>

<省略>

別表(六)、三九年度分(単位・円)

<省略>

<省略>

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